出生数“86万ショック”への対策を考える
今日は「“出生数86万ショック”への対策を考える」をお送りします。
早いもので今年も既に8月に入ってしまいました。一昨日の1日(土)には気象庁から東海と関東甲信地方の梅雨明けが発表されました。両地域とも今年の梅雨入りが7月21日(火)でしたので、平年より11日遅い夏の到来となりました。8月に明けるのは、梅雨明けを特定しなかった年を除けば、関東甲信地方で13年ぶりになり過去4番目の遅さ、東海地方では11年ぶりで過去3番目の遅い記録とのことです。
今年の梅雨はその期間の差だけではなく、期間降水量が平年に比べて非常に多かったことが特徴的だったと思います。梅雨期間中の降水量は軒並み平年に比べておよそ2倍にも達したそうです。梅雨前線の停滞が影響して熊本県を中心に吸収や中部地方などの各地で集中豪雨に見舞われて沢山の犠牲者が出てしまいました。7月9日の時点で気象庁が現在進行形の大雨を「令和2年7月豪雨」と名付けたのも記憶に新しいと思います。
最近良く「線状降水帯」と言う言葉を耳にしますが、長さ50~300km、幅20~50kmほどに渡って発生し、7月上旬の10日間に降った降水量としては20万8308mmで、過去最大だそうです。また、ほぼ同時期の12日間の全国の降水量としては25万3041.5mmで、これも過去最大だったのです。コロナ禍では湿度が高いことがウイルスの拡散防止に一役買ったと言えるのかも知れませんが、逆に大雨がもたらした大きな災害は非常に多くの犠牲者を生んでしまいました。
そんな状況下で、ウイルスや大雨のニュースが連日の様に各地域の危機的な様子を伝える中、仲人業をライフワークの一つにしている私にとって、これまた危機的なニュースが7月31日(金)の最終日に飛び込んできました。それは、「出生数86万ショック」の見出しです!。政府は31日、「2020年版少子化社会対策白書を閣議決定」したのですが、その中で、「出生数は減少傾向が続き、昨年19年の出生数が90万人を初めて割り込み、約86万5千人となった現状を『86万ショック』と呼ぶべき状況だ」と改めて危機感を表現した。(共同通信)と言う内容でした。
実は厚生労働省からは昨年12月末に「令和元年(2019)人口動態統計の年間推計」が公表されており、2019年の出生数は90万人を大きく割り込んで、実に前年比5万4千人減少の86万4千人の数字を推測していて、明治32年(1899)の統計開始以来最も少なくなるとの、かなりショッキングな予想を立てていました。確かにこの数字を見た時はショックでしたが、内心では「そ、そんなバカな...あくまで推計値で根拠が薄いのでは?!」と余り本気ににはしていませんでした。
ちなみに出生数から死亡数を差し引いた、日本の全人口減少数は51万2000人で、これは北関東最大の都市とされる宇都宮市とほぼ同じ数になります。つまり北関東の中核市に匹敵する人工が消えてしまう規模の致命的な減少数と言う認識を新たにしなければならないほどのインパクトなのですが、所詮平成から令和へ改元されることが1年前に発表されたために、一時的に結婚や出産を遅らせる社会現象なのでは?!と言う味方もあった事は事実でした。
しかし、今回の一昨日31日(金)の「2020年版少子化社会対策白書を閣議決定」は、それらの根拠のない希望的観測を見事に打ち砕いてくれる結果となったのです。これに拠って人口減少傾向は危機的な様相を強め、かなりのスピードで進む出生率の低下や人口減少は、確実に税収の低下を招き、社会保障制度を根本から成り立たなくさせてしまう可能性が、いよいよ現実味を帯びてきた感じがいたします。
その要因は決して一時的なものではなく、この日本国の結婚に対しての社会通念や価値観を大きく変えてしまったばかりか、家計を営み子供たちを生み育てて一国の社会経済を継続させ、ひいては家計の総体としての国家の存続を極めて危機的な危うい状況にしてしまっていると言えるのではないでしょうか。
今日は改めてその根本的な幾つかの要因がどこにあって、具体的にどんな対策をとれば、その危機的な状況がより深刻化していくスピードを遅らせることができるのか、少子化を含めた人口減少傾向を如何にしてストップさせることが出来るかを考えてみたいと思います。では早速参りましょう。
<日本の人口減少が進む理由>
①少子化の進行
人工水準を維持するために必要とされる出生率(合計特殊出生率)2.07を大幅に下回って推移しており、2007年には1.31まで低下し、その後1.39程度で安定すると見込まれていますが、5年毎に行われる「日本将来推計人口(国立社会保障・人口問題研究所)」で見通された数値を常に下回っていて、予想を超える勢いで少子化が進んできたことが実情です。その低位推計では2050年に1.10に到達するとも言われているのです。
②高齢化の進行
日本は少子化と同時に高齢化も進んでいることは周知の事実となっています。先程の「将来推計人口」の中位推計によると、老年人口比率は今後も上昇を続け、2025年に28.7%、2050年には35.7%と極めて高水準になると見込まれているのです。これは現役世代(20歳~64歳)が約1.4人で一人の高齢者(65歳以上)を支えなければいけなくなることを意味しています。 現在は約3.6人で一人の割合ですから、将来は先進国中最も高齢化の進む国となるのです。
③人口減少社会の現実
少子高齢化が進む中、日本の人口は2006年の1億2,774万人をピークとし、その後減少傾向が続いていて、「将来推計人口」の中位推計では凡そ2050年には1億60万人になると予想されています。また人工の年齢構成も大きく変化し年少人口(0~14歳)の減少は勿論のこと、生産年齢人口(15歳~64歳)の総人口に占める割合は2000年の61.8%(8,622万人)からどんどん減少し2050年には53.6%(5,389万人)まで低下するとされています。この生産年齢人口の急激な低下は経済成長のマイナス要因となり、同時に社会保障制度を根底から揺るがせる事態となっているのです。
④出生率低下の要因
言わずもがなではありますが...「未婚化」「晩婚化」「晩産化」の進行に他なりません。生涯未婚率(50歳まで一度も結婚した経験のない人の割合)は以前当ブログでも紹介した通り、2015年統計では男性23.4%、女性14.1%に増加しています。これが2040年には男性でほぼ30%、女性も20%に達すると予測されているのです。男女差があるのは、一つには未婚女性と結婚する再婚男性が増加していることが挙げらており、二つには婚活を始める時期に対する意識差、つまり妊娠や出産を考えて男性よりも早い段階で結婚をしたいと考えて行動する女性が多いからだと言われています。
また「晩婚化」では2015年の厚労省「人口動態統計」では平均初婚年齢では夫が31.1歳、妻が29.4歳で、前回5年前の2010年と比べると各々0.6歳遅くなっています。更に65年前の1950年と比較すると男性が約5歳、女性が約6歳遅くなっていて、所謂「晩婚化」の傾向が顕著に見て取れると思います。これに伴い「晩産化」も進行していることは明らかで同統計によれば、今から45年前の1975年には第一子出生時の母親の平均年齢が25.7歳だったのが、2016年には30.7歳となっており実に平均値で5歳も「晩産化」が進んだことになっています。
昔実際に良く言われた、「クリスマスケーキの例え」と言うのを記憶されている方もいらっしゃるでしょうが、「女性の結婚は24歳までが理想的、25歳の間には何とか駆け込みで何とか、それを過ぎたら売れ残ってしまう...」などと、随分ヒドイ言われ方をしていたものですが、それが30年前の現実だったのです。しかし今となっては隔世の感があり、平均初婚年齢が男女とも30歳を越えようとしている訳なのです。もう結婚をクリスマスケーキに例える人は無くなりましたが、確実に「晩婚化」「晩産化」に繋がっていて、全体としての婚姻件数が60万件を大幅に割り込んでいる状況とも併せて考えてみれば、少子化に歯止めがかからない危機的な状況は益々深刻になってきているのです。
<少子化対策の内容>
思い返してみれば、1990年に出生率が人工水準を維持するために必要とされる2.07を割り込んでしまい1.57となったことが「1.57ショック」と言われ、一般的に少子化問題が認知される様になりました。それ以降、政府は少子化を食い止めるために様々な法整備や施策を実施してきたことは事実です。その内容は次の通りです。
①エンゼルプランと新エンゼルプラン
出生率1.57ショックの後、1994年に当時の文部省、厚生省、労働省、建設省が合意して村山内閣の肝入りでスタートしたのが今後の子育て支援のための「エンゼルプラン」でした。次に1999年小渕内閣の時に少子化対策推進関係閣僚会議に於いて「少子化対策推進基本方針」が定められ、これを基礎として重点的に推進すべき少子化対策の具体的実施計画について所謂「新エンゼルプラン」が大蔵、文部、厚生、労働、建設、自治の各省大臣の合意で実施されたのです。
このプランは保育、保健医療体制、地域や学校の環境、住まいづくり、さらには、仕事と子育て両立のための雇用環境整備、働き方についての固定的な性別役割分業や職場優先の企業風土の是正などの考え方も盛り込まれた幅広いものでしたが、皮肉にも少子化は急速に低下していきました。 そこで更なる次世代育成支援施策を進めるために、「次世代育成支援対策推進法」と「少子化社会対策基本法」が制定されたのです。
1994年に「少子化社会対策基本法」が施行に伴い、実施のための「少子化社会対策大綱」が作られ施策の指針となっています。その具体的な実施計画として「子ども・子育て応援プラン」に基づき対策が取られてきましたが、これまでの対策のみでは少子化の流れを止めるには至っておらず、一応の成果としては全国で待機児童が多少なりとも減少したことと、放課後子ども総合プランの中で「放課後児童クラブ」が整備され、共働き世帯の児童が小学校への就学後も放課後の安全な居場所の確保が少々進んだ程度だと思います。
2015年からは現行の安倍内閣で「夢をつむぐ子育て支援」などの「新・三本の矢」の実現を目的とした「一億総活躍社会」の実現に向けた「ニッポン一億総活躍プラン」が2016年に閣議決定され「希望出生率1.8」の実現に向けて、若者の雇用安定と待遇改善、多様な保育サービスの充実、働き方改革の推進、希望する教育を受けることを妨げる制約の克服等々の対策を掲げています。中でも働き方改革は時間外労働による「長時間労働の是正」、同一労働同一賃金の実現のための「非正規雇用の処遇改善」をテーマとし、2017年に「働き方改革実行計画」が行われました。
現在実施されているものとしては、「子育て安心プラン」に基づいて女性就業率80%にも対応できる約32万人分の児童保育を整備することとし、2017年の「新しい経済政策パッケージ」では今年度2020年度末迄に前倒しで整備することを目標としています。更にこの経済政策パッケージでは少子高齢化対策として「人づくり革命」と「生産性革命」を施策として閣議決定しました。特に前者については「幼児教育の無償化」、「待機児童の解消」、「高等教育の無償化」などを実施することで社会保障制度を高齢者重視型から“広く薄く”の全世代型への転換を図ろうとしてる様です。
<何が問題点なのか>
前項でお話した「人づくり改革」としての「幼児教育の無償化」、「待機児童の解消」、「高等教育の無償化」は、所謂“共働き家庭に限らずシンママやシンパパ世帯も含めて子供がサービスを平等に享受することが可能になると言う点では注目すべき良い方向性だと思います。ただし、その財源をたかだか2%の消費増税に頼ると言うのは、所詮やる気がない形式的なものだと言っている気がしてなりません。
先の東京都知事選挙で、れいわ新選組の山本太郎候補が総額15兆円規模の地方債を発行してコロナ損失を底上げすると言う政策を掲げておられましたが、国もこのコロナ禍で行う政策としてはもっと大胆かつ早急に積極政策を推し進めるべきだと思っています。コロナ対策だけでも10万円の給付金を国民全体へ1年間続けてもインフレ率は2%に達しないとの財務省の試算が出ているそうです。個人的な発想で恐縮ですが、政策が地味過ぎるのではないでしょうか?また机上の空論で人口減少社会の危機感への真剣な想いが国民に伝わってないのではありませんか?...。
少子化対策をかれこれ四半世紀も続けてきて、殆ど成果という成果を生むことが出来ないのは、何故でしょうか?。石川啄木が『一握の砂』で「はたらけどはたらけど猶わが生活楽にならざりぢっと手を見る」と歌っている様に、以前なら国民が総中流意識を保てた一般庶民の暮らしぶりは、今や凋落の一途を辿り“一人当たりGDP”は世界の中で1988年の2位から、何と2018年には26位にまで転落してしまっているのです。暮らしぶりがせめて“中流”を意識出来るようになるまで回復しないことには、個人消費だって伸びる筈が無いと思えてなりません。
<“出生数86万ショック”への対策>
国立社会保障・人口問題研究所が2015年に実施した第15回調査によれば、夫婦にたずねた理想的な子供数の平均は2.32人となっていて1987年第9回調査の時の2.67人から減少が続いています。また夫婦が実際に持つつもりの子供数の平均は2.01人とこれまた第9回調査時の2.23人から減り続けているのです。
とは言え、その減少する数字の変化を見れば、個人的な感想ですが、ほぼ変化してないとも言えるのではないでしょうか?!。つまりこの失われた30年の間と言われるデフレが続いた時代にも関わらず数的には大きく変化していないと思うのです。更に同調査によれば、その予定子供数が理想子供数を下回る理由について「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」という経済的な理由が最も多く、次に「高年齢で生むのはいやだから」「欲しいけれどもできないから」「これ以上、育児の心理的、肉体的負担に耐えられないから」の順に続いています。
つまり、日本の少子化の直接的な原因を突き詰めて考えれば、結婚した夫婦が子供を多く生まないからではなく、「晩婚化」や「晩産化」によって物理的に多く生む確率が少なくなっていることと、それにも増して一番深刻なのは「未婚化」によって結婚しない人の割合が増加し続けていることなのだと思うのです。でしたら、我が国が今やらなければいけない政策は子供を多く生んで貰える様な環境を調えることにフォーカスした「少子化対策」ではなく、寧ろその手前の対策が必要で、婚姻数を右肩上がりに増やしていく「未婚化婚活対策」にポイントを絞ることが、「少子化対策」として最も有効なのではと思えてなりません!。
少子化の原因を「未婚化」「晩婚化」「晩産化」と認識をしているところ迄は良いのですがその中身を何故か「結婚しても出産を控えてしまうことにある」としています。故にどうしても既存の子育て世帯への支援が中心になってしまいます。しかしデフレが続いた失われた30年の間、確かに予定子供数が理想子供数を下回っているとは言え、先程も申し上げた通りその数字にそれほどの大きな変化は見られないのです。既存の子育て世帯への支援は必要な政策だとは思いますが、そこがカンフル剤になるかと言えば少々ズレているのだと思います。
今こそ生涯未婚率の上昇や婚姻数の減少が止まらないことへの対策を「少子化対策」の基本とすべきです。若い世代が抱えている将来への不安は深刻です。非正規雇用の広がりによる不安定な雇用環境が続き、その結果として生まれる経済格差と貧困化の問題は身近に存在しています。それに加えて現在の新型コロナウイルスの蔓延は非正規やフリーランスの生活を更なる苦境に追い込んでいます。彼等の今後の人生を本気で考えた時、結婚して家計を営み子育てをしながら、それでも今よりも生活が良くなる、幸せが増す希望が持てなければ、その様に行動するとはどうしても思えません。
今年の6月11日付の東京新聞の社説では次の様に述べてます。「政府が少子化社会対策大綱を閣議決定した。五年ぶりの見直しだが、これまでの延長線上にある施策が並ぶ。少子化を食い止めるための政策の矢は、的に当たっているのか、疑問は消えない。...(省略)...若者が、学びや就労を何度でもやり直せる社会の仕組みが必要だし、子育て期だけでなく高齢期までの人生のさまざまな場面で、自立を支える社会保障のプランを備えておく必要もある。安倍晋三首相が『全世代型社会保障』の実現を掲げるならば、若い世代が安心できる対策を考える責任が、政府にはある。」私はこの意見に賛成です。少なくとも今迄の観点での少子化対策を四半世紀も続けてきて、特に目立った成果を上げていないことを真摯に総括し、今こそ“出生数86万ショック”を解消すべく「子育て支援」を中心としたものを変更し、「未婚化婚活対策」に的を絞った政策が実行に移されることを願って止みません。
今日も良い一日であります様に。
0コメント